シータの錬金術

一人暮らしの家計、投資、セミリタイアの研究

日本が「安い国」になったのは円安のせい

このところ、世界的にみた日本の物価や購買力の下落を嘆く報道をよく見かけます。そしてその背景として、長引くデフレの影響や日本人の賃金の伸び悩みがある、と説明されるのが一般的です。たとえば以下のような記事があります。

月給9万円、もう買えない 「安いニッポン」の現実: 日本経済新聞

 

こういった論調に対して、元日銀理事の門間一夫氏は「日本の物価や賃金が海外よりも低くなった理由は、円安である」と端的に述べています。

「安いニッポン」の本当の問題点:門間一夫の経済深読み(PDF)

コラム:円安の長期化を喜べない本当の理由=門間一夫氏 | ロイター

  • 「近年の円の実質実効レートは過去25年間の平均に比べて25%も安い」
  • 「実質実効レートよりもわかりやすい指標として、...「ビッグマック平価」がある。これはビッグマックの価格が内外で同じになるような為替相場のことであり、それをドル/円相場についてみると、最近は69円となっている。実際の円(引用者注:1ドル=110円前後)はそれより4割近くも安い」
  • 「日本の賃金が海外に比べて低い最大の理由も円安である。1ドル=69円で計算すれば、日本の物価は安くないし、日本の賃金も低くない」

日本は海外に比べ物価上昇率が低い国ですから、日本のモノの値段が世界的にみてどんどん安くなっていくのも当然と思えます。ところが本来、理論的にはそうなりません。日本の物価が安くなると、やがて為替相場円高方向に動き、自動的に内外のモノの値段が均衡していくと考えられるからです(購買力平価仮説)。この理論をもとに、多くのエコノミストが「中長期的には円高にもどっていく」と予測してきました。

しかし門間氏は、ここ20年あまり購買力平価仮説が効かなくなり、日本の物価が国際的にみて安いまま放置されるようになったと指摘します。そして、この円安の背景には国力の低下があり、円安の固定化はこの先も長く続くのではないか、と示唆しています。

この見方に沿って考えるならば、「円の世界」で暮らし続けるだけで、私たちはジリジリ貧しくなっていくことになります。実際、投資をしている人たちの中には、円は持ってるだけで損する通貨だと感じている人が多いと思います。一方で多くの日本人は、円建で給与や年金を受け取るだけでなく、金融資産の大半も円預貯金で保有しています。

もしも、将来のどこかの時点で、ふつうの日本人が「円で持っていたら損をする」と認識して、資産を外貨に逃避させるような状況になれば、それは「円が終わる」一つのきっかけになるでしょう。

とはいえ、日本以外の多くの主要国の政策金利も、今や相次いでゼロやマイナスに沈んでいて、外貨の積み立てや外国債券投資だって難しい状況です。円が見放される頃には、ドルやユーロもポンドもすっかり目減りがすすんで、株式や不動産といった資産価格だけが、高いところから通貨を見下ろしている気もします。

 

*JPモルガンの佐々木融氏も類似の論点の記事を書いている。コラム:円安は「後退する日本」の象徴なのか、浮上する不都合な真実=佐々木融氏 | ロイター